東京高等裁判所 平成12年(ラ)1375号 決定
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は、抗告人の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告状」、「抗告理由書」(各写し)記載のとおりである。
第2事案の概要
事案の概要は、原決定の「理由」の1記載のとおりであるから、これを引用する。
第3当裁判所の判断
1 動産売買の先取特権(物上代位)に基づく差押命令を発するために必要な民事執行法193条1項所定の「担保権を証する書面」は、同法181条1項1号ないし3号と異なり、確定判決等の法定証拠に限定されるものではなく、複数の文書を総合して担保権の存在が証明できる文書であれば足りるものである。しかし、同法193条1項の文理上、担保権の存在を証明するに足りるものであることが必要とされている上、「担保権を証する書面」が提出されることにより、債務者の反論を待つことなく、直ちに執行が開始されるものであり、しかも、同法193条2項によって準用される同法184条が担保権の不存在等により換価の効果が影響を受けない旨規定している点を考慮すれば、同書面の証明力については、それ自体で担保権の存在を高度の蓋然性をもって証明することができるものであることが要求されると解するのが相当である。
2 これを本件についてみるに、抗告人が、「担保権を証する書面」として提出している主な文書は、抗告人と被抗告人との間の継続的商品売買契約書(甲1)、抗告人の得意先元帳(甲3ないし5)、抗告人の品目別売上明細(甲6ないし8)、抗告人の荷物領収原票(甲9)及び第三債務者の買掛金残高証明書(甲10の1、2)であり、被抗告人が具体的取引について発行した文書は存在しない。したがって、上記各文書は、抗告人又は第三債務者が一方的に作成した文書ということになり、内容について反対尋問等を経ていないことを考慮すれば、その証明力は弱いというべきであり、それ自体で担保権の存在を高度の蓋然性をもって証明することができる文書とはいい難いものである。
また、上記各文書によれば、抗告人が被抗告人に対し完封箸等の動産を売却し、被抗告人が第三債務者にこれを転売したという大筋については立証されていると認められるが、第三債務者が作成した買掛金残高証明書(甲10の1、2)記載の動産が、抗告人が平成12年1月1日から同年3月17日までに被抗告人に売却した完封箸等の動産と同一であるとの証明までされているとは認められない。すなわち、第三債務者が作成した買掛金残高証明書(甲10の1、2)記載の動産が、被抗告人から何時仕入れられたものであるかが明らかにされておらず、抗告人が主張する以外の時期に仕入れられた完封箸等の動産が混入している可能性を否定できないし、被抗告人が、抗告人以外の業者からは完封箸等の動産を仕入れていないとの客観的証拠は皆無であるから、被抗告人が第三債務者に売却した完封箸等の動産が、抗告人において平成12年1月1日から同年3月17日までに被抗告人に売却した完封箸等の動産と同一であると認めることはできないものである。
以上の事実を総合すると、上記各文書が「担保権を証する書面」であると認めることはできないというべきであり、「担保権を証する書面」の提出がないことに帰するから、抗告人の本件申立は理由がないというべきである。
3 よって、上記結論と同旨の原決定は正当であり、本件抗告は理由がないから棄却し、抗告費用を抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 塩崎動 裁判官 小林正 裁判官 萩原秀紀)
抗告状
東京高等裁判所 御中
平成12年6月22日
抗告人(債権者) 中央化学株式会社
代表者代表取締役 渡辺浩二
抗告人代理人弁護士 末政憲一
同 叶幸夫
同 水澤恒男
同 鈴木英夫
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
債権差押命令抗告事件
上記当事者間の東京地方裁判所平成12年(ナ)第657号債権差押命令申立事件について、同裁判所が平成12年6月16日後記原判決決定の表記記載の決定をなし、右決定は抗告人に同月19日送達されたが、抗告人は、これに不服であるから本件抗告に及ぶ次第である。
原決定の表示
1 本件申立を却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
抗告の趣旨
1 原決定を取り消す。
2 債権者の申立により、上記請求債権の弁済に宛てるため、担保権目録記載の動産売買の先取特権(物上代位)に基づき、債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。
3 債務者は、前項により差し押さえられた債権について取立てその他の処分をしてはならない。
4 第三債務者は、第2項により差し押さえられた債権について債務者に対して弁済してはならない。
との裁判を求める。
抗告の理由
おって理由書を提出する。
添付書類
1 委任状 1通
2 資格証明書 1通
当事者目録
抗告人(債権者) 中央化学株式会社
代表者代表取締役 渡辺浩二
抗告人代理人弁護士 末政憲一
同 叶幸夫
同 水澤恒男
同 鈴木英夫
相手方(債務者) 有限会社折源商店
代表者代表取締役 高橋竹松
第三債務者 株式会社ほっかほっか亭
代表者代表取締役 中内健幸
抗告理由書
東京高等裁判所 御中
平成12年6月27日
抗告人(債権者) 中央化学株式会社
抗告人代理人弁護士 末政憲一
同 叶幸夫
同 水澤恒男
同 鈴木英夫
相手方(債務者) 有限会社折源商店
第三債務者 株式会社ほっかほっか亭
債権差押命令抗告事件
上記当事者間の御庁平成12年(ソ)第542号債権差押命令抗告事件についての抗告の理由は以下のとおりである。
1 原決定は理由第3項において、債務者・第三債務者間で本件動産そのものについて転売契約がされたことを認めるに足りる的確な証拠を見出すことができないと述べ、その根拠として債権者が債務者に昭和61年6月以降継続的に商品を売却してきたことを掲げる。
原決定の根拠とするところは以下のとおり実際の商取引の経験則に反するものであり、また、100パーセントに近い証明を債権者に要求するものであって、裁判上の証明としては厳格に過ぎるものである。
2 第1に、債権者が債務者に対して売却した商品は、第三債務者用の特注品で(甲17、一の3)、債権者元帳(甲3~5)においても品目名末尾に(H)又は(プレナス)の符号が付されている(甲17、三の1)とおり、第三債務者以外の者に転売されることはない。
また、第三債務者からも債権者が債務者に売却した商品が第三債務者に転売されていること、および、その商品一覧(名称及び個数)を示す証明書が提出されている(甲10の1及び2)。
同証明書は取引後、買主(債務者)の関与なく作成された文書とはいえ、本件差押の可否につき利害関係を有しない第三債務者が、自己が有する客観的根拠(販売元帳、台帳等)に基づき作成して提出したものであり、極めて信頼性の高いものである。
本件で取引時に作成された文書が提出できないのは、債権者・債務者・第三債務者間での個々の取引がオンラインによる発注・受注という操作を経て行われているためである(甲17、一の4)。もし、裁判所が、あくまで取引時に作成された取引文書による証明を求めるとするならば、現行の商取引に対する認識が時代的にずれているとしか申し上げようがない。
3 第2に、原決定は、平成11年中に債権者が債務者に売却した商品の転売代金債権が、債権者が差押えようとしている債権中に混入している危険性を危惧している。
しかしながら、債権者が債務者に売却した商品は、売却順に従い債務者から第三債務者に転売されるのが経験則上当然であり(先入れ先出しの原則)、先に仕入れた商品を残して後に仕入れた商品を先に売却するのは通常のことではない。偶々、何かの手違いにより、先に入れた商品と後から仕入れた商品の売却の順番が逆になることがあっても、時期的には大差は生じないのであり、判断に影響を及ぼすものではない。
原決定のように平成11年中に売却されたものが、平成12年2月以降になって債務者から第三債務者に売却されるというのは異例の事態であり、裁判所がそのような異例の事態を念頭において本件申立を却下するというのは、申立却下の目的で稀有の事例を探し出して立論しているとしか言いようがない。
さらに、原決定の述べるように極めて厳格な証明度を必要とするならば、種類物の転売代金債権については、債権者から第三債務者に商品を直送した場合以外は差し押さえられなくなってしまい、実体法が転売代金について動産売買の先取特権による物上代位を認めている趣旨に反する上、裁判における証明は一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないとしてきた判例とも矛盾する。
むしろ、証明度については債権者が本件で提出した証拠及び経験則によって証明した程度で足りるものとし、もし、証明を覆す証拠を債務者が有しているのであれば、債務者側から抗告の申立をさせることが商取引の実情や社会常識に合致した判断である。
以上